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山崎 元のマルチスコープ
【第199回】 2011年9月21日
山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
国の不幸を長期化させる霞ヶ関株式会社の「ビジネス・モデル」
http://diamond.jp/articles/-/14090
より
【抜粋 引用開始】抜粋文責:引用者(川崎)
■芝居の脚本は官僚が書いている
・・・官僚作文のつなぎ合わせのような新首相の所信表明演説原稿(「日本経済新聞」13日夕刊)を読み返すと、結局、この内閣は、官僚が脚本を書く田舎芝居の新しい演目に過ぎないことが分かって、早くも「もういい」という気分に傾く。前とその前は、・・・「政治主導」というアドリブ重視を試したものの、役者の力量が追いつかず芝居にすらならなかった。今回の内閣は、教訓を踏まえて、ひときわ脚本家(官僚)に従順のようだ。
・・・その前の自民党政権も含めて、政治は主体的に機能していない。・・・集団としての官僚(以下、「霞ヶ関」)が日本の社会と経済を動かしていると考えるべきだろう。
■「霞ヶ関」には国民の不幸が好都合なのか?
野田新首相に指摘されるまでもなく、現在の日本に課題は多い。・・・
(1)復興に向けた動きが遅い
(2)デフレ脱却
(3)円高の悪影響
(4)社会保障、年金の改革
(5)日本の財政問題
これらに加えて、・・・欧州と米国の状況が、共に怪しいを通り越して「まずい」に変わりつつある・・・。
・・・諸々の課題を眺めてみて、一つの仮説に思い至った。それは、「霞ヶ関」は、震災や円高、あるいはデフレのような困難をむしろ歓迎しているのではないか、もう一歩進めて考えると、長引く困難を利用することが彼らの「ビジネス・モデル」として定着しつつあるのではないかということだ。
・・・以下、筆者が事実だと思っていることと、仮説がなるべくはっきり区別できるように気をつけて書く・・・。
■たとえば、震災復興
先ず、東日本大震災から(の)・・・本格的な復興に対応する第三次補正予算がこれから・・・という・・・ペースは「非常に遅い」。・・・
・・・復興に関わる細目はある程度時間を掛けて決まる方が「霞ヶ関」がこれに深く、有効に関与して「利権化」することが容易である。
・・・現役官僚の権限が強まることと、これを背景にして将来の天下りの機会が拡大することを、霞ヶ関の「利権」と考え、利権を拡大することが彼らの・・・「ビジネス」なのだと考えてみる・・・。
・・・即効性があり、個々の地域、ひいては個人のニーズに対応しやすいのは、被災者に主として現金を配布することだ。被災者は緊急に個々のケースで必要な目的にお金を使えばいい。被災地から他の地域に移りたい人もいるだろうし、地元に残りたい人もいるだろう。地域や個人に選択を与えつつ、両方に対応できる支援は現金支給だ。
しかし、現金の交付、特に複雑な手続きや審査が伴わない単純な見舞金支給は、官僚(「霞ヶ関」と自治体両方)の「利権」につながらない。現金配布は、子ども手当が「霞ヶ関」に憎まれたのと同様、利権にならないばかりか、他の利権に活用すべき予算を圧迫する。
■「円高」利用は完成されたモデル
・・・筆者が、今回の仮説を思いついたきっかけは、民主党代表選の少し前に「円高対策」として打ち出された、外為特会の外貨を使い海外投資を支援する数兆円規模の基金の構想・・・既に外貨になっている資産を海外投融資に回すことがどうして円高対策なのか・・・。
しかし、これは税金(政府資産)を使った一種の空洞化支援ではないのかと・・・「ああ、これは『霞ヶ関』の利権拡大の手段なのだな」ということだった。
・・・円高対策を名乗る資金を扱う組織だが、新しく基金を作るならポストが増えるし、JBIC(国際協力銀行)がまとめて扱うとしても、JBICの案件と、従って権限を大幅に拡大し、これは、財務省の国際派人脈にとっては、豊かな利権の源になる。
報道されているように、資源確保や海外のM&Aに使うお金を、好条件で融資ないし出資して貰えるなら・・・、企業にとっては大きなメリットがある、大変嬉しい話だ。対象企業は、財務省OBが「行ってもいい」と思えるような世間体のいい大企業が中心だろう。しかも、融資や出資は条件審査が複雑だから裁量の余地がたっぷりある。
円高という「苦難」に対して、海外投資を支援する基金のような仕掛けを「対策」を名目に導入し、「霞ヶ関」側では「利権」を拡大・確保する。これは、「ビジネス・モデル」として既にパターン化されているものの、典型的な応用例なのではないか。
野田首相の演説原稿では、「円高阻止にあらゆる手段」とはいうものの、具体的に金融緩和の方法が述べられているわけではなく、具体的に書かれているは、「立地補助金を拡充」、「円高メリットを利用して、日本企業による海外企業の買収や資源権益の獲得を支援」といった企業のメリットと役人の利権に直結する「生臭い」話だけだ。
民主党代表戦時も含めて、野田氏が述べる円高対策とは、「円高そのものを反転」させる徹底した金融緩和のような原因に働きかけるものではなく、先に挙げたような対策や中小企業の資金繰り支援のような、「円高になった後に、これを我慢するため」の対症療法ばかりだ。
「霞ヶ関」は円高を困ったことだとは思っていないのだろう。政策批判を多少受けたり、市場介入のための根回しに汗をかいたり、介入自体が十分効かなくて恥をかいたりしても、それらは所詮「お仕事」の一コマに過ぎないし、円高の困難が続く方が上記のように「利権」を拡大できるのだから、むしろ彼らの利害の上では円高歓迎ではないのか。・・・
■増税は「霞ヶ関株式会社」の増資だ
デフレでも、公務員の雇用と実質給与は安泰だし、デフレは、不況の原因となって、「霞ヶ関」による各種の「対策」の必要性を継続的に生む。
もちろん、「霞ヶ関」のビジネス・モデルにとっては、予算の規模及びその維持が決定的に重要であり、「増税」は一般企業における「増資」のような余裕を霞ヶ関株式会社にもたらす。
「利権」が有効であるためには、(出来れば現在の現役が天下りするもっと先までの)継続性がなければいけない。増税を早く確保して、将来必要になる財政支出の削減をより小さく済ませることが、すべからく「長期」が大切な霞ヶ関の住人達の重大な関心事であることは当然だ。早期の増資は、将来のリストラの苦悩を和らげる。
また、「霞ヶ関」のビジネスは、大根役者(政治家)達に脚本を書き渡して国会で法案を通し、予算に盛り込むことでこれを実行する形を取るので、基本的には、一年をサイクルとして進行する。しかも、長期的に利権に関わることが将来も期待されるからこそ、天下りに需要が発生する。
・・・
ポイントは、個々の官僚の意図や倫理観の問題ではなく、官僚集団の利益に着目した時に、国民が直面する不幸をむしろ歓迎する「利害」が存在することだ。この利害は、国民の不幸の解消に「霞ヶ関」(本石町辺りの金融子会社も含む)が不熱心であることの原因になりかねないし、下手をすれば国民の不幸の積極的な長期化につながりかねない。この構造は変えた方がいい。
もちろん、仮説だから間違っているかも知れない・・・。
仮に、官僚による裁量の余地が少ない現金による再分配がスピード感を伴って広く行われ・・・るような「嬉しい反証」があれば、今回の仮説は、喜んで撤回する。
それまでは、折に触れて、この仮説を思い出しながら、脚本家(官僚)達の利害を推測しつつ、(主に政治家が演じる)田舎芝居を見物することにする。
【引用終了】
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Tags: ショック・ドクトリン, デフレ, 円高, 外為特会, 外貨, 官僚, 山崎元, 年金改革, 社会保障, 財政, 震災復興, 霞ヶ関
脚本家達は彼らですね。
へぼ役者は、白痴政治家もどきですね。
では、脚本家を選び舞台のテーマを決定する総合監督は誰でしょうか?
今回の事件はこれから何百年以上つづく悲劇であります。
日本全土が放射能汚染で死滅していきます。
確かに百年後には今生きている人は一人もこの地上には生存していません。
みんな死んでいます。問題なのはこの被爆がこれからも続くかぎりにおいて、百年後の日本には人がいないのではないかということです。
霞ヶ関が利権を求めて生き続けてもせいぜい20~30年ぐらいでしょう。
その頃には日本国の存在さえ危ないでしょう、税金などどこから集めてくるのでしょうか。だれもいなくなりつつある世界で。
官僚は国民存在の上に成り立つものでありますから、国民がいなくなれば彼らも残念ながら消えてゆきます。
官僚達の存在は国民に握られていることを忘れているのでしょうね。
子供達や国民を被爆させたまま放置していれば官僚の存在はないのです。
総合監督が誰であるかはどうでもいいいのです、やつらはただの悪魔ですから。
霞ヶ関が目覚めることが本当に大切なのでしょうね。
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